体験記10・精神科ナースが精神疾患になって痛感した【料理ができない】のリアルなおはなし
こんにちは、恩田ゆうかです。
この体験記では、うつ病・不安障害を発症した精神科ナースである私が、患者さんの立場になって初めて痛感できた様々な「テーマ」について、シリーズでお伝えしていきます。
同じ病気や似たような症状を抱えている方、またそういった方を支える側の方々にとって、この体験記がヒントとなり、何かの気づきに繋げていただけるものになればと考えています。
今回はのテーマは「料理ができない」です。
料理をしたくない
もともとが料理好きというわけではありませんでしたが、夕飯は仕事を終えてから帰宅したあと、私が作るというのが我が家の流れでした。
無意識でしたが「母親が作るべき」というマイルールがあったのだと思います。
何年もそれが当然のルーティーンだったので、「疲れているのに嫌だなぁ」などと思うことは滅多にありませんでした。夕食がお惣菜やお弁当になることも、ほとんど無かったです。
しかし、心身共に疲労が重なっていくにつれて「夕飯を作らなくちゃ」という思いよりも、「どうしても料理を作りたくない!」という気持ちの方が強くなり、それも頻繁に湧き上がるようになっていきました。
献立を考えることも、冷蔵庫にどんな食材が入っているか思い出すことも、何を食べたいか考えることも、全てを投げ出したくなってしまうのです。時に泣き出してしまうほど、これは辛く衝動的な感情でした。
不注意が増える
自分ではそんなつもりはないのに、集中力が明らかに落ちている。そういったエピソードが増えていきました。
包丁で指を切ったり、食器を割ったり、料理を焦がしてしまったり、調味料を間違えたり。
こういうことが重なるうちに、ますます料理を作りたくないというネガティブな思いが強くなっていくのでした。
野菜の切り方が分からない
「こんなことある?」と思われるかもしれませんが、うつ状態がひどいときは、本当に野菜の切り方さえ分からなくなってしまうのです。もっと正確な言い方をすると、切り方を「忘れた」のではなく、「考えたりイメージしたりするエネルギーが少しも無い」といった方が近いかもしれません。
この段階はもはや「料理を作りたくない」のではなく、「どうしてもできない」のです。
いざ料理をしようと思ってキッチンに立ち、まな板、包丁、キャベツを用意しても、そこで立ち尽くしてしまうのです。気が付けばそのまま何分も経過していて、やっとの思いで包丁を握りしめたのに、その場で泣き崩れてしまうありさまでした。
そんな自分が情けなくて、子どもの食事さえも満足に作ってあげられないのかと悔しくて、自分を責めては苦しむという負のループに、完全にはまっていました。
ゆうかのワンポイント
料理は脳を大変よく使う作業です。冷蔵庫の食材から作れそうなメニューを連想し、それぞれの食材を食べやすい大きさにカットし、適切な料理器具を使い、調理・味付け、その合間に洗い物をしつつ、並行作業で数品目のおかずを用意するのです。それも五感をフルに活用して。
うつ状態の人は、本当にエネルギーが底をついてしまっていて空っぽの状態です。何かを考えたり、想像したりすることも辛く難しい状態であることを分かっていただけるとありがたいです。特に料理はその最たるものであるといえます。
そして多くの場合、料理を作れないうつ状態の人は自分のことを責め、必要以上に申し訳ないと思っています。家族に対して何ひとつできないと、自信を無くしてしまっていることでしょう。
料理も作れない、そんな時期は何よりも休息を優先するべきです。しっかり休み、しっかり療養に専念することが第一なのです。手料理でないといけない理由なんてあるでしょうか?お惣菜でもコンビニ弁当でもいいのです。
周囲の方には、何が一番大切なのかということを示していただけるよう、お願いしたいです。食事を準備することよりも、心と体を休めることの方がはるかに重要なのだと語りかけてあげてください。