体験記1・精神科ナースが精神疾患になって痛感した【ライフスタイルの変化】のリアルなおはなし
突然ですが、“ナース”と聞いてどんなイメージを思い浮かべますか?
ハードワーク、白衣の天使、子どもの頃の夢などなど…いくつか声が聞こえてきそうですね!
きっと「病気とは無縁」で「健康そう」というのが、“ナース”という職業に対して抱かれる共通のイメージではないでしょうか?
はじめまして。恩田ゆうかです!
私もそんなナースのひとりです。
専門は精神看護。
大学のゼミの頃から、これまで精神科一筋でやってきました。
ナースという職業が「ハードワーク」で「メンタル・体力が充実していないと勤まらない」というのは、本当です。
もちろん職業柄、自分の健康管理は仕事のうち。普段から人一倍体調には気をかけていますが、それでも人間、思いがけず病気になることがあるのです。
まさか、私も自分の専門領域である精神科にお世話になるときが来るなんて、思ってもみませんでした。
この体験記では、うつ病・不安障害を発症した精神科ナースである私が、患者さんの立場になって初めて痛感できた様々な「テーマ」について、シリーズでお伝えしていきます。
同じ病気や似たような症状を抱えている方、またそういった方を支える側の方々にとって、この体験記がヒントとなり、何かの気づきに繋げていただけるものになればと考えています。
今回のテーマは「ライフスタイルの変化」です。
再婚・引っ越し・転職
改めまして、恩田ゆうかです。
チョコレートと猫を愛する31歳です。
これまでシングルマザーとして、女手ひとりで愛娘を育ててきた私に、あるとき大きな転機が訪れます。
それは、再婚。
今まで住んでいた土地を離れ、新たな街で、新たな生活を始めることになりました。3人で暮らす日々は、笑顔が溢れ、幸いにして娘と夫の関係も良好。
「もう娘にはさみしい思いをさせない」という決意と、「私にもやっと安らげる場所ができた」という思いが混ざって、ほっと幸せをかみしめていました。
転居に伴い、職場も家からほど近いクリニックに転職。
新しい職場は、アットホームな温かい空気で私を迎え入れてくれました。
それまでは日勤も夜勤もバリバリこなす病棟勤務をしていたのですが、娘も小学校入学のタイミングだったことから、勤務時間帯が日中だけの訪問看護にシフトチェンジ。
「朝は起きて、夜は眠れる。」
規則正しい生活が送れるのは数年ぶりだったので、こんな当たり前のようなことが、うれしくてたまりませんでした。
倒れる
新しい環境に本当に恵まれ、私はこれ以上ないほどに、順風満帆なスタートを切ることができました。新たな人生の幕開けとしては、十分すぎるものでした。
ところが、少しずつ体に異変が生じ始めます。
寝ても疲れが取れない。
頻繁に起こる頭痛。
胃の不快感。特に起床後の吐き気。
いくら順風満帆だったとはいえ、その毎日は慣れないことの連続。心身ともに疲れがたまっている自覚は持っていました。それでも「一過性のストレス反応だろうから、慣れるまでの辛抱」とタカをくくって、それほど気にも留めていませんでした。
実際、仕事中はこれらの異変を感じることはほとんどなく、それよりも「新しい職場で早く仕事を覚えなくちゃ」という気持ちの方が強かったのです。
しかし、事態は予想外に深刻でした。
ある朝、ミーティング中に吐き気と胃痛で倒れてしまったのです。
症状が良くなるまで、休みを取らざるを得なくなりました。
忍び寄る罪悪感
もともと心配症な私。
胃潰瘍の療養中、頭の中をめぐるのはネガティブな感情ばかりでした。胃痛と吐き気にさいなまれ、ベッドとトイレの往復で過ぎる毎日は、どんどんプラスのエネルギーを消耗していく一方です。
「まだ入職して半年も経たないのに長期欠勤だなんて社会人失格」
「妻としても、母としても、上手くやれない」
そんなことばかりが、ぐるぐると頭の中を回っていました。
次第に「しっかり病気を治すことに専念して、万全な体調で仕事に戻る」という考えよりも、「とにかく1日も早く元の生活に戻す」ことの方が、何よりも重要だと考えるようになっていきました。
そして、自分の中に芽ばえた焦りから、3週間ほどで無理やり仕事に復帰したのです。
今になって冷静に振り返ると、この頃から物事の捉え方がアンバランスになっていったように思います。この療養中に読んでいた本のうち、3冊全てが「罪悪感」をテーマにした書籍だったのですから。(後から気づいて驚きました)
私の頭の中は、取り留めのない罪悪感に支配されていたのです。
ゆうかのワンポイント
結婚、転居、転職など、一見ハッピーな出来事に思えるライフイベント。実はこれらのイベントは、ものすごくストレスがかかることをご存知でしょうか?
有名な研究として、1960年代に発表されたホームズとレイによる「社会的再適応評価尺度」というものがあります。この研究は、誰もが経験する可能性のあるライフイベントをそれぞれ点数化し、ストレスの強さを視覚的に評価できるようにしたものです。
この研究によると、「配偶者の死」や「借金」等、当然ストレスとして考えられるもの以外に、「結婚」「妊娠」などの喜ばしいイベントでも、強いストレスがかかることが示されています。
人は、新しい環境に置かれたとき、想像以上に強いストレスにさらされているのです。
「私もそうかも」と心当たりのある方は、積極的に休息の時間を確保するなどして、ご自分のことをいたわってあげてくださいね。
体験記2に続きます。